B:ナンバーXIX 宵闇のヤミニ
カリヤナ派のアナンタ族に、「ヤミニ」という名の少女がいた。生まれながらに、豊かな魔力を持っていた彼女は、やがて帝国軍に徴用され、連れ去られてしまう。
同盟軍が放った諜報員からの報告によれば、彼女はアラミゴ市街地の一角に築かれた怪しげな実験施設に収容されたらしい。
その中で一体何が行われたのかはわからない。
だがふたたび戻ってきたとき、彼女の自我は失われ、ただ無差別に人を襲うおぞましき存在となっていたのだ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「ガレマール帝国軍による娘の誘拐。
それはガレマール帝国軍からすれば新たな可能性を秘めた駒の入手であり、研究材料確保に過ぎないのだろう。だが、母親からするとどんなに誤魔化しの言葉を並べても誘拐は誘拐であり、深い悲しみと相手に対しての激しい憎しみ以外のどんな感情が持てるというのか。
我々アナンタ族はアラグ文明よりも古い歴史を有し大過なく現代にまでその文明を存続している半人半蛇の誇り高き民族だ。アナンタ族には大きく分けると多数派であるカリナヤ派と少数派であるウィルラ派の2派がいて、そのいずれもが薄っぺらい歴史しか持たない癖に横暴極まりないガレマール帝国に対して敵意を抱いている。
アナンタ族の子供は多かれ少なかれ、個体差はあれ、どの子も魔力を持って生まれてくるものだが、ヤミニは飛び抜けた魔力を持っていた。隠しても隠しきれない程のその魔力に目を付けたガレマール帝国軍はヤミニを私から奪い去った。「徴用」とは名ばかりの完全な「誘拐」だった。
人間文明とは隔絶した社会を築くアナンタの一族にやれることは限られているが、それでもヤミニを取り戻すためあらゆる手を尽くしたがヤミニの居所すら掴む事が出来なかった。
そのまま10年の歳月が流れたある日、カリナヤ派の集落に招かれざる客が現れた。
アラミゴ出身の冒険者だという屈強な一団は見た目に反し我々に対して友好的だった。そして反ガレマール活動をしているという彼らからヤミニの行方について有力な情報を得た。
ガレマール帝国は自分たちが扱う事の出来ない「魔法」というものについてアラミゴ市街地に専門の研究所を作って研究しているのだという。そこにはエオルゼア各地から強制的に集められた強い魔力を持つ者たちが収容され、研究の材料とされているというのだ。
悩みに悩み、族長にも相談した上で我々はヤミニの事を冒険者に打ち明けた。
話を聞いた冒険者たちは同情を示し、ヤミニ奪還に協力したいと言い出した。
聞けば、彼らは彼らでアラミゴ市街に侵入する手立てを探していたのだという。
自分たちを反乱を企てた者として突き出す見返りにヤミニを返すようガレマール軍と交渉すれば、自分たちは比較的簡単に市街に入れるし一石二鳥だと。我々はその提案に乗ることにした。
我々は冒険者達を縄で縛り、旧アラミゴ市街の入口へと連行した。高い石の城壁に囲まれたアラミゴ市街の入り口で衛兵に反乱分子を捕えたから連行した旨を伝え、城壁の上から顔を出した責任者にその見返りとして攫ったアナンダ族を返還するよう伝えた。
数時間そのまま待たされたのち、再び顔を出した責任者はその要求を飲むと答えた。
城壁に据えられた巨大な鉄の扉がゆっくりと観音開きに開く。その向こうには檻に入れられ座り込み俯くアナンダの姿が見えた。立派に大人として成長しているがヤミニ間違いなかった。
10年間探し求めた娘の姿に涙が溢れて止まらなかった。
縛られた冒険者を反乱分子として引渡そうとしたとき、城壁から覗く責任者がそれを止め、衛兵に銘じてヤミニの檻を開かせた。我々は一体どういうことなのか、全く理解できなかった。
檻の中でヤミニが立ち上がり、顔を上げた。焦点の合わない目、意味もなく笑うかのように口角が上がり開いた口。ヤミニは檻の外に降り立つと反り返ったシタール刀を抜いた。
「ままぁ・・・・まぁ・・・ままぁ・・」
意味の分からない声を上げたかと思うとヤミニは一瞬で冒険者との間合いを詰め、次々にその首を跳ね飛ばした。なんの躊躇もなく、問答無用に縄で縛られたままの彼らの首を光のような速さで。
城壁の上からガレマール軍の責任者の高笑いが聞こえた。
さらにヤミニはぎこちない動きで我々の方に顔だけ向けると、また意味の分からない声を上げた。
次の瞬間、冒険者たちの縄を握っていたアナンダ族の同胞を上半身と下半身の真っ二つに切り分けた。
声を出す間もなく同胞は地に落ち、臓物と血液を撒き散らした。我々は一斉に逃げ出したが、さらに2人のアナンダが犠牲になった。」
そこまで話すとヤミニの母親は流れる涙をぬぐった。
「最早あれはヤミニではない。アナンダの姿をした悪魔だ。」
母親はそう言った。ガレマール帝国がどんな研究をしたかは分からないが結果、ヤミニは洗脳されたか若しくは精神を悉く破壊されて生物兵器となってしまったのだ。
「あれは娘の姿はしているが娘とは言えない。不憫な娘の魂はもういない。」
そういうと母親はキッと顔を上げ毅然と言った。
「あの化け物を始末して欲しい」
あたしと相方は無言で頷くと席を立った。